九州ベテルクリニック福岡性同一性障害トランスジェンダー専門領域の外来
九州ベテルクリニック福岡性同一性障害トランスジェンダー専門領域の外来 (旧サイト)
1.治療をメインに希望の方
(1)治療をメインに希望の方は、ほとんどの方が幼少期か成人してから他院にてASD/ASp/ADD/ADHD/PDDなどを診断済みでいらっしゃいます。こちらでは、オキシトシンホルモン治療をDSM4-TR/DSM5のすべての発達障害に適応を拡大済みであるため、いずれであっても又はいずれのスペクトラム併存症であってもオキシトシンホルモン治療に導入可能です(なお、過去の診断の再検メニューと現在の症状の程度評価アセスメントのメニューもあります)。お問合せ
(2)DSM5以前に診断を受けたか、旧診断基準DSM4-TRで診断を受けた方の場合には、択一的にADHDが除外されてしまっているため、この点は再検します。
(3)オキシトシンは、点鼻スプレーと注射のいずれも実施可能です。使用用量については、東京大学発表の分と他の国内外の研究機関の発表の用量を分析済みですので、予算に応じて使用頻度と月ごとのオキシトシンホルモン国際単位を決定します(オキシトシン感受性遺伝子検査もあります)。また成人の場合では必要に応じて、小児ASD治療薬のAPZを併用します。
(4)ADHDの症状(特に多動性衝動性)が強い場合は、オキシトシンだけでは不十分なため、APZやATXを併用します。
(5)抑うつ・不安・焦燥感・不眠などの2次障害が強い場合には、セカンドオピニオン先での2次障害の継続的な精神的サポートが必須です。当院ではこれらの向精神薬・睡眠薬は取り扱っていません。しかしながら、継続的な精神的サポートのカウンセリングにおいて薬物療法併用となる場合には、薬剤感受性遺伝子検査の結果を利用できますので、従来よりも治療環境はかなり改善するといえます。
(6)性嫌悪や性衝動に対する嫌悪については、女性ホルモン注射・女性ホルモン内服とミルナシプラン等の性衝動抑制作用の強いSSRI/SNRIを併用します。お問合せ
2.診断or診断のやり直しをメインに希望の方
(1)プライマリファーストオピニオンと先端検査群
九州べテルクリニック福岡に発達障害初診の方、または他院で診断された発達障害について症状の程度の追検や批判的観点からの再診断を希望の方には、スタンフォード大学の遺伝子検査プログラムによるDRD遺伝子等の原因関与遺伝子の探索や、九州福岡では九州べテルクリニック福岡発達障害外来でのみ導入されているADI-R/CAADID日本語版 Conners’Adult ADHD Diagnostic Interview for DSM-IVTM(カーディッド)/CAARS日本語版 Conners’Adult ADHD Rating Scales(カーズ)/A-ASD/A-ADHD等のアメリカにおけるゴールドスタンダードといわれる半構造化診断面接技法と先端発達検査によっていくらでも探索します。お問合せ
こちらの心理検査・発達検査・知能検査プログラムは、ハーバード大学のプログラムを基にし、東大病院・東京大学病院精神科こころの発達診療部のプログラムを網羅しています。東京の大学病院や東大病院・東京大学病院精神科こころの発達診療部で受けられる検査であって、九州福岡ではこちらで受けられないものはありません(入院検査・入院行動観察は除く。)。
東大病院・東京大学病院精神科こころの発達診療部で行われている発達障害入院検査プログラムの内容が知りたい方は、プログラム冊子を差し上げます
また、発達障害遺伝子検査でカバーしている発達障害遺伝子の数と種類は、ジョンホプキンス大学「男性の遺伝病遺伝子データベース」に同定・収載されている(当該データベースについては市中の一般臨床医ではその存在すら知らない方も多いのでここでは紹介・参照はしません)、ADHD関与遺伝子68種類及びASD関与遺伝子117種類を全てカバーしています。よって、これらのADHD/ASD関与遺伝子のすべてについてその保有の有無とvariantリスク変異の有無を調べることが出来ます。さらにそのリスク変異があったとして、それがどの程度の発症増悪リスクとなるのかを示す比較倍率評価単位及びその同定にどの程度の裏付けられた根拠があるのかを示す評価単位もついています。
(2)セカンドオピニオン・サードオピニオン
内部だけでの診断で終わらせるのではなく、各種の遺伝子検査・内分泌検査・心理検査・知能検査の診断資料一式を転送し、セカンドオピニオン,サードオピニオンに回します。それぞれの先生とは診療で連携はしていますが、その診断意見は客観的かつ独立したもので、九州べテルクリニック福岡発達障害外来での診断を形式的になぞるものでは決してありません。
3.各種発達障害の種類の別と特徴、診断における考え方
(1)アスペルガー症候群
DSM5におけるASDのうち、4歳までに言葉の遅れがなく、生まれつきの高い知能と美しい知性、その後の優秀な学業成績を示すものがアスペルガー症候群です。また、アスペルガー症候群に特有の雰囲気、細身で端麗な容姿がしばしば見られます。男児・少年の場合は女性によくモテ、特に年上の女性に好かれてお世話を焼かれる傾向が顕著に見られます。この点、トニー アトウッドも同様の指摘をしており、Aspergers Syndrome:A Guides for Parents and Professionals(P249)において、「私は、アスペルガー症候群の子どもが、ほかの人に母性的な保護したいという本能を引き起こさせてしまうことを発見しました」と述べています(邦訳 内山登紀夫)。一方で、トニーアトウッドはさらに「アスペルガー症候群の子どもは他人(周囲の大人)のまたは他の子どもからの動物的な攻撃の本能をも引き起こさせてしまう」と述べており、これが学校での「トラブル」やトランジットエイジにおける勤務先での「トラブル」につながっているものと思われます(学校での「トラブル」対策についてはこちら)。
アスペルガー症候群は、オキシトシン治療等の治療介入により、勉強・研究・お仕事について、顕著なパフォーマンスの向上を示しやすい発達障害です。お問合せ
九州べテルクリニック福岡発達障害外来での症例では、地区の上位高校で通年トップ20位以上、大学受験は上位国立大学現役合格を楽に成し遂げる部類の才能ある方たちです。旧基準DSM4-TRのころには、アスペルガー症候群の上位カテゴリである発達障害とADHDを併存して診断することは認められていなかったため、DSM5以前にアスペルガー症候群と診断された方には、ADHDの併存症がある方が多くいます。お問合せ
(2)ADHD
注意欠陥、多動性・衝動性の2大領域で特有の症状を示す発達障害です。DSM5以降はASDとの併存・接近傾向が広く強く認められるようになってきたため、九州べテルクリニック福岡発達障害外来ではASD自閉症スペクトラム/アスペルガー症候群とまとめて検査、診断、治療を行っています。九州べテルクリニック福岡発達障害外来では、保険適応外のエビリファイを使っています。ご希望であればストラテラも処方可能です。ADHDは、高知能群の場合には、オキシトシン治療等の治療介入により、勉強・研究・お仕事について、顕著なパフォーマンスの向上を示しやすい発達障害です。お問合せ
(3)その他の発達障害 ASD自閉症スペクトラム/PDD広汎性発達障害
DSM4-TRのPDD広汎性発達障害はその概念的にASD自閉症スペクトラムに吸収されましたが、日本にはPARSという独自の有用・優秀な自閉症評価尺度があり、その自閉症評価尺度は従来のPDD広汎性発達障害に焦点を当てたものであったため、自閉症スペクトラムにおける旧基準でのカテゴリー探索のためには、PDD広汎性発達障害の概念はいまなお独立して検討する余地があります。また、ASD自閉症スペクトラムには、特に高い知能と学業成績を示すわけではない普通の自閉症と、4歳までに言葉の遅れがあり知的障害はないものの特段に高い知能というわけではない高機能自閉症が含まれます。
(4)アスペルガー症候群と高機能自閉症の決定的な違い
決定的な違いは3つあります。
1.診断基準上、4歳までに言葉の遅れがあったかなかったか
2.その障害が、主に言葉・言語の障害か、他者とのコミュニケーションの障害か
3.際立って高い知能と知性、学業成績を示すか
4.診断の「道場破り」受診について
(1)ASD自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群、ADHDについては、そもそもその発達障害について特有のハイパフォーマンスを特徴としたいわゆる「かっこいい病気」であることや、歴史上の人物・著名人・有名人でこれらの発達障害だったとあとから検証されたりカミングアウトしたりした事例が広く知られるようになったためか、学業上も社会的にも成功しているのに、九州べテルクリニック福岡発達障害外来にわざわざ診断を受けにくる方がいらっしゃいます。ASD自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群・ADHDのどの発達障害についても、職業生活・日常生活に困っておらず、臨床上有意な苦痛・困難というものがなければ、どれだけその特徴・症候・傾向があろうとも、わざわざ発達障害の病名・診断をつけることはありません。
(2)しかしながら、ASD自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群・ADHDの特徴・症候・傾向については特定・鑑別可能ですので、一連の検査とともに、「道場破り」的な受診もお引き受けします。お問合せ
5.精緻緻密(High Scrutiny)な診断アセスメントとグローバルスタンダードな診断ツール
(1)ADI-R 常時実施体制は国内では東京大学医学部附属病院精神科(こころの発達診療部)及び
九州ベテルクリニック福岡発達障害(ASD自閉症スペクトラム アスペルガー症候群 ADD/ADHD PDD広汎性発達障害)専門外来のみ ;出典「医学の扉」
(2)CAADID 常時実施体制は国内では東京大学医学部附属病院精神科(こころの発達診療部), 九州ベテルクリニック福岡発達障害(ASD自閉症スペクトラム アスペルガー症候群 ADD/ADHD PDD広汎性発達障害)専門外来, 弘前大学病院神経医学講座のみ ;出典「医学の扉」
(3)CAARS 常時実施体制は国内では東京大学医学部附属病院精神科(こころの発達診療部), 九州ベテルクリニック福岡発達障害(ASD自閉症スペクトラム アスペルガー症候群 ADD/ADHD PDD広汎性発達障害)専門外来, 弘前大学病院神経医学講座のみ ;出典「医学の扉」
(4)PARS-TR ADI-R/CAADID/CAARSとの併用常時実施体制は国内では九州ベテルクリニック福岡発達障害(ASD自閉症スペクトラム アスペルガー症候群 ADD/ADHD PDD広汎性発達障害)専門外来, 弘前大学病院神経医学講座のみ
九州ベテルクリニック福岡GID性同一性障害GD性別違和専門領域の外来MTFFTMホルモン治療ホルモン注射SRS
●検査・診断関連
●教育療育関連
●その他一般
□0.プレ評価:事前にお送りする心理検査・発達検査に回答返送していただき、初診をお受けするかどうかのプレ評価を行う。
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□1.初診受付:ベテル初診・問診・診察・検査
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□2.地域精神科コンサル:2件目のメンタルクリニック(精神科)にてWAISⅢ及び脳波検査
※WAISⅢ・脳波検査は、アスペルガー症候群の確定にはいずれも特に必要な検査と診断プロセスです。
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□3.セカンドオピニオン/ファイナルオピニオン:3件目の心療内科にて、全検査結果と2件の所見をもとに精査しファイナルオピニオンをもらう。
(フェイズ1 九州ベテルクリニック福岡でのプライマリ診断) お問合せ
ステップ1 幼児期・児童期の兆候及び現在までの連続性評価
2歳までの幼児期の兆候再検 M-CHAT
6歳までの小児期の兆候再検と現在までの連続性評価 ASQ (国立特総研式)
ステップ2 知能・学習能力・全般的個別的な頭の良さの検査
複合知能検査
実行機能検査・作業能力検査
学習能力検査 PRS/LDI-R
ステップ3 現時点でのコミュニケーション・社会性・イマジネーション感覚プロファイル
SCQ 観察者評価式(保護者・養育者が子供を評価)
SCQ 観察者評価式(担任教師・家庭教師等の教育担任者が子供を評価)
SRS-2 対人応答性尺度(保護者・養育者が子供を評価)
SRS-2 対人応答性尺度(担任教師・家庭教師等の教育担任者が子供を評価)
AASP 感覚プロファイル
(子供が自分で自分を評価 ※ただし子供の知能・理解力が非常に高い場合に限る)
CARS 自閉症評価尺度
A-ASD 観察者評価式(保護者・養育者が子供を評価)
A-ASD(子供が自分で自分を評価 ※ただし子供の知能・理解力が非常に高い場合に限る)
S-M 社会生活能力検査
ステップ4 ADHD 合併除外または合併傾向検査
WHO 世界保健機関式 ASRS (子供が自分で自分を評価)
CAARS 観察者評価式(保護者・養育者が子供を評価)
CAARS 観察者評価式(担任教師・家庭教師等の教育担任者が子供を評価)
A-ADHD 観察者評価式(保護者・養育者が子供を評価)
A-ADHD (子供が自分で自分を評価 ※ただし子供の知能・理解力が非常に高い場合に限る)
ステップ5 ASD 半構造化診断面接質問プレ評価( PARS-R)
ADHD半構造化診断面接質問プレ評価(DIVA or CAADID)
ADOS発達障害臨床行動観察に準じた幼児・児童の行動観察・家庭訪問
ステップ6 ADI-R ASD 自閉症スペクトラム半構造化診断面接
DIVA または CAADID ADHD 半構造化診断面接
(フェイズ2 地域精神科コンサル・脳波検査) お問合せ
上記の検査結果とプライマリ診断意見を2件目の専門医に転送し、描画テスト等のパーソナリティ検査(東大病院精神科こころの発達診療部のプログラムでは、特にこの部分を重視しています。)及び脳波検査と地域精神科コンサル(セカンドオピニオンのようなもの)を受ける。
(フェイズ3 ファイナルオピニオン) お問合せ
上記フェイズ1及び2の全検査結果と2件の診断意見を3件目の専門医に転送しファイナルオピニオンを受ける。このフェイズ3に至るまでの段階で東大・九大の子供の発達外来で受ける検査は入院行動観察検査以外はほぼ網羅しているので、検査漏れや検討漏れはまずありません。
● ASD vs ADHD お問合せ
2014 年から診断基準( DSM-5 )に変更があり、 ASD と ADHD を併存扱いすることができるようになりました。現在の医療制度及び処方制度上、 ASD 単独扱いの場合は事実上治療法が無いという扱いのため、その後の進学進路や高等教育学業支援の上で大きな支障がでます。そのため、多少でも「注意欠陥」や「多動性衝動性」の症状がある場合には、それをあえて取り上げて「 ADHD 合併疑い」を残しておいた方がいい場合があります。そのために上記(フェイズ1のステップ4)において念入りに ADHD の追加検査をするようにプログラムを構成しています。
特に、知能が高く勉強・研究を頑張る ASD/ アスペルガー症候群のお子様の場合には、厳密にはASD 適応ではなくとも、 ADHD のお薬がよく効くことが多くあります。お問合せ
●脳波検査が必要な理由
ASD/ADHD のお子様は学年が上がるに従って頭痛・睡眠障害・起立性障害のような症状を表現するようになることが多くあります。それに備えて、児童期・学齢期の状態がどうであったを記録し将来の状態と比較するために、脳波検査を検査項目に入れています。 お問合せ
●実施する検査の取捨選択
検査をお送りしたり実施したりする前にだいたいの検査内容の組み合わせを選定していますが、レスポンスと結果の状況次第によって、内容の変更・増減はしばしばありえます。
●診断後教育相談・勉強学習研究相談・進路進学相談 お問合せ
診断後は、 ABA/TEACCH 等の家庭内での取組み方法や進路進学・勉強法等についての相談も行います。継続的な経過観察と投薬治療・生活調整の奏功評価については、ファイナルオピニオンの先生に経過を診てもらうことが多いです。あとはしっかり勉強と研究をがんばってください。
実施例(本件実施例の紹介は、匿名化した上で症例として紹介することについて適正なインフォームドコンセントを得ているものである。)
●実施例当事者プロファイル
30代~40代男性 高IQかつ上級学位保持者 専門職
●症例提示
幼少期の自閉症の指摘はなく、当然診断も受けていない。幼少期からあまり人付き合いが好きではなかったが、高校生頃からとおりいっぺんの人付き合いは意識的にするようになり、放課後の交遊・季節的イベント・旅行・アウトドア活動などでも中心的なメンバーとして関わるようになった。しかしながら、その交遊は本意ではなく、本当はひとりだけの時間を過ごしたかった。
小学生の頃に一時忘れ物が多くなり、そのような忘れ物に対する恐怖感から持ち物や保管場所を何度も確認するなどOCD様の症状が出現した。以後は、重度のOCDというほどではなかったものの、いわゆる「神経質」「潔癖症が過ぎる」感じで、日常生活で不都合を感じるようになった。その後、自身で考案した暴露療法的な取り組みで高校生の頃にはこのようなOCD様の症状は消失した。一方で、忘れ物については簡易な確認メモを常に携帯するなどして克服していた。
小学生頃から大学生になっても何となく一箇所に座っておれず、頻繁に足を組み換えたり、ペンを回すくせがあった。座っていられない傾向については、慢性の腰痛を訴えており、日常的に頓服の鎮痛剤を服用していた。また、思春期以降はいずれのパートナー女性らからもベッドでの足のばたばたした動きや頻繁な姿勢変えについてたびたび苦情を言われるようになり、男女交際やパートナーと同じ寝室で寝ることも柔らかく避けるようになっていった。スポーツ競技時代にステロイドの使用歴があったことから、若干の前立腺肥大も見られた。
●受診歴
それまでに一定以上の知的水準にある知人や上司らからADHDやアスペルガー症候群の可能性を示唆されており、「病院にいけ」とのアドバイスもあったことから東京の精神科と心療内科を2件行ってみたものの、いずれのクリニックでも「それっぽい傾向はありそうだが、診断できるほどではなそう」との所見であり、ADHDもアスペルガー症候群も診断されなかった。そのため、加療の必要性なしとしてそれぞれのクリニックで一度の受診で終診となった。
●診察所見と臨床所見
上記のヒストリーに加えて、詳細な生育歴と教育歴・職業歴を聴取し、さらに本人をよく知る第三者へのヒアリングと観察者評価式の心理検査も行って精査したが、コミュニケーションや社会性の偏り感、注意欠陥や多動を思わせる履歴はあるものの(診断基準による操作的診断によれば診断は可能かもしれないが)、はっきりとした問題や困難がなく、診察所見においてもASD/アスペルガー症候群並びにADHDの所作挙動の雰囲気は薄いことから、診断は困難であった。
●本件における診断を妨げた要因
本件では、本人の社会適応は悪くなく、高い知能の保持・思春期以降の継続的連続的な異性交際・学業の完遂・職業上経済上の成功をなしているので、ASD/アスペルガー症候群/ADHDのいずれについても、それを積極的に発達障害として診断し得る状況にはなかった。
●遺伝子検査の実施と結果
そのため、本人から「遺伝子検査によって決着をつけたい」との積極的な申し出があったので、適切なインフォームドディシジョンに基づいて、フルライン型ゲノム解析をもって、ASD/アスペルガー症候群/
ADHD/その他の関連する疾患の遺伝子検査を行った。その結果、右のとおりの複数のADHDのリスク遺伝子(※1)及びASDのリスク遺伝子(※2)の存在を認め、さらにゆるい多動を思わせるについては「むずむず足症候群」のリスク遺伝子(※3)の存在を認めた。また、ASDのリスク遺伝子の他に、人の顔を認識し記憶しづらいという認知の偏りを示唆するリスク遺伝子(※4)の存在も認めた。
さらに、発達障害とは関係ないが、前立腺肥大・前立腺癌・前立腺の炎症傾向のリスク遺伝子(※5)も認めたため、以後は当該疾患適応の薬物治療を開始した。
●考察
本件のように、詳細な生育歴・教育歴の聴取及び第三者へのヒアリング、心理検査、診察所見、臨床所見並びに操作的診断技法のいずれによってもなお診断が困難を極める症例というのはときどきあるものである。そのようなときに、最後の補助証拠・補強証拠として、遺伝子検査は強力なツールとなる。
また、本件では多動を思わせる症状が、実はむずむず足症候群のリスク遺伝子と前立腺肥大と慢性炎症に対する脆弱性遺伝子が関与していたことも明らかとなり、発達障害に加えて内科的治療・神経科的治療・泌尿器科的治療を立体的に組み立てることができたため、治療は劇的に進展した。現在の当事者のQOLは極めて良好である。
さらに、パートナー女性他複数の交際相手から、「付き合い当初はお調子者に見えるが、付き合ってみると突然愛情が無くなったように見えて冷淡なときがある」との証言を得ていたが、OXTR遺伝子(※6)とエンパシー(共感する気持ち・思いやる気持ち)を保持する遺伝子(※7)に脆弱性があり、たしかにそのような冷淡な態度を示しやすい傾向があることも明らかとなった。パートナー女性以外の人間関係においても、多くの第三者から「彼は家族を持つのは向かないと思う」との評価であったが、そのような評価も当該遺伝子の存在をもって裏付けられた形となった。
ADHDとASDとの合併と相互にいずれが主たる障害であるかについては、第三者評価によれば「彼はADHD」との評判がほとんであり、「彼はアスペルガー症候群」と指摘ないし同意する者は少なかった。また、臨床所見としてもADHD優位を思わせる様相は強かった。しかしながら、リスク遺伝子の倍率と関与遺伝子数を比較すると、本件ではASD(アスペルガー症候群/アスペルガー障害)がメインであったとの診断に確定した。
●2次障害考察
本件では、もともとの特質として運動・スポーツの不得手の訴えがあり、また外出や旅行、長時間の仕事に際しての易疲労性の訴えと第三者観察所見があった。当初これは軽い協調運動障害と2次障害性の易疲労と思われた。そのため、協調運動障害のリスクを示す遺伝子を探索したがこれを認めず、続いて易疲労についての脆弱性を探索したものの、セロトニンシステムを介した慢性疲労のリスク遺伝子を認めず(※8-1)、また慢性疲労症候群の遺伝子も探索したもののリスク遺伝子を認めなかった(※8-2)。そのため、本件の易疲労性は発達障害とは直接関係がない可能性が示唆されたため、探索方法を切り替え、疾病・疾患・障害ではなく運動能力・アスリートスポーツパフォーマンスの遺伝子評価を行った。これによれば、VRP遺伝子及びTNF遺伝子により中程度以上のPERT不良傾向にあることが判明し、さらにNPAS2遺伝子/BTBD9遺伝子により、著しく睡眠パフォーマンスが悪い特質があることが判明した。
本件では睡眠障害はたしかに呈されていたが、これは当然にADHDに由来するものだと考えられていた。しかしながら、ADHDのリスク遺伝子の中には睡眠障害と強いリンクを持つものは確認されず、むしろスポーツパフォーマンス評価目的での遺伝子検査において、睡眠パフォーマンス低水準のリスク遺伝子が認められた。よって、当初は2次障害と思われた易疲労性及び睡眠障害は、発達障害(特に本件においてはADHD)とは関係がなく、運動生理を司る遺伝子による特質に過ぎないと確定した。※1 ADHDリスク遺伝子