作曲家の魂の結晶である作品を実際に演奏することは、時代を経て新たな生命として音を空間に放つことである。芸術作品を作り上げることに等しい。
そのためには、奏者はまず正しく楽譜を読まなければならない。ここで意味する正しい読譜とは、旋律や和音の連なりからカデンツを見つけ、フレーズを捉えること。
動機や主題の展開と調性の変化を踏まえて、曲中の大小様々な山を見つけ、曲の構成を把握することである。
ブルグミュラー練習曲、インヴェンションやソナチネを弾くようになったら、分析する意識を持たせ、だんだん自分で出来るようになっていくことが望ましい。楽譜の音符たちを手掛かりに構成を考えるのだ。
そのために指導者は、レッスン曲のカデンツを題材に、機能和声の予備知識を生徒に与える。
主音、下属音、属音、導音、音階固有和音の説明から始め、TDSの機能和声の知識が得られるようにしたい。トニックは家、ドミナントは学校、サブドミナントは遊園地、必ず出かけてもトニックの一度(つまり家)に帰りたくなる等、子供でも分かりやすい説明を心がけること。
インヴェンションでは動機と主題を一方的に説明するのでなく、一緒に探す。ソナチネやソナタに入ったときに、こうした小さなモティーフが様々に変形して活用されるが、それをすぐ見つけることができる土台となる。それらの主題旋律が計画的に用いられ、ソナタ形式への布石となるのだ。
ソナタ形式では提示部、展開部、再現部へと曲が進むにつれて調性もどんどん色を変えていくが、自分は何調の世界観にいるのか。どのように調ごとに色を変えて奏するのか考えさせる。そこで一番心情的にアプローチしやすいのが、時代背景、作曲家の人生について知ることである。生徒自ら調べ考えるようにしたい。
さて、演奏上の問題として難易度の高いパッセージの克服がある。手首の柔軟性、手の甲のうねりといった脱力奏法と同じくらい大事なのは「指使い」である。こちらは指導者が、フレーズを踏まえたうえで、何種類かパターンを示す必要がある。
速く弾くようになると、ゆっくり弾いた時とテクニックが違ってくる。指使いは前後のフレーズもつけて速く弾くようになると変わることもあるので、一度決めたパターンだけに囚われないようにしたい。
また和音の連打やコーダといった曲の盛り上がりの部分で、息切れしたり耳障りなフォルテとならないために、全体構成から一番の山場を頂点とし、引き算でダイナミクスを計算し、体力を分散させる視点も持たせたい。大きな豊かな響きを作り出すためにとても大事なことである。
レッスンで得たことを自身の普段の練習にどのように反映させるか、いつも「どうしてこう弾くのか」「なぜこのアルペジオは弾きづらいのか」考える姿勢、それを促すような問いかけも大事である。
まずは指導者の先導から、自ら調べ考え、創意工夫をもって作品を仕上げるのだ。
主体的に学ぶ姿勢がつけば、ベートーヴェンの中期後期ソナタ、ロマン派の作曲家たちが、文学の疾風怒濤から霊感を得た世界、印象主義の絵画とドビュッシーの響き・・・それらの作品に、共感と感動と尊敬をもって臨めるようになるだろう。